山の風とドローン

夏の暑さもひと段落した10月に南アルプスの甲斐駒ヶ岳へ山登りに行きました。例年北アルプス方面の山に登ることが多いのですが、久しぶりに南アルプスの大自然を満喫してきました。当日は天気が良く風もほとんどなかったため、とても快適な登山でしたが、3000m級の山の稜線(尾根すじ)に出ると台風のように猛烈な突風に見舞われることが多々あります。

みなさんは風速15mとか言われて具体的なイメージが湧くでしょうか?風速にもいろいろ種類があり、平均風速とか最大瞬間風速とか定義がいくつかあります。気象台が「風速」という用語を使うときは「10分間の平均風速」のことを指すようです。(詳細は気象庁のHPなどを参照下さい。)山の上では割と普通に吹いていそうな平均風速15mの横風。生身の人間が山の上でこの風を受け続けると途端に体温が低下し装備如何によっては低体温症などとても危険な状態になります。このレベルの風速は航空機にとっても脅威となります。通常ドローンのような小型の無人航空機は離着陸時の横風に弱く、スペック上の耐風速(理想的な条件でギリギリ機体の姿勢制御や位置制御ができる風速)でも15m/s以下であることが一般的です。実際に安全な運行ができる風速はその1/3程度で5m/s以下であることが多いです。風速5m/sというとやや風が出ているかなというくらいに感じるかもしれませんが、ドローンのオペレーションに関してはこのレベルの風速でもけっこうなインパクトがあります。基本的に地上付近で計測される風速値は上空へ行くとその数倍になることがあり、また、風自体も時々刻々大きくなったり小さくなったりと息継ぎします。自然の風はシミュレーションや風洞試験で使われるような定常で一様な流れではありません。ドローンが離着陸する場所近傍の風速は何となくわかってもひとたび上空に行ってしまうとあとは風まかせに近い状態となります。強風時は最悪風に流されて前に進めない、突風や横風で姿勢制御のリカバリーができずに墜落ということも普通にありえます。ドローンにもいろいろな種類がありますが、比較的重量が軽く、固定ピッチプロペラのドローンは横風や突風に対して非常に脆弱です。

山小屋の物資輸送などでは有人のヘリなどが活躍していますが、この山小屋がよく建てられている稜線上鞍部(のっこしなどという)では、ものすごい突風が吹くことがままあり、有人ヘリのオペレータの方は荷下ろし等で常に緊張感のある操作を強いられていることと思います。様々な課題はありますが有人ヘリでの物資輸送をドローンで代替しようという試みも行われています。山小屋近傍で発生する突風や乱気流に加え、雨や霧、雪、雷など山の変わりやすい天気、バッテリーの消耗する低温、揚力の低下する高高度など、山小屋近傍でのオペレーションが有人機同様困難を極めることは想像に難くありません。しかしながら、ドローンによる物資輸送は、山小屋運営者の負担や人的リスクの軽減、自然環境への負荷軽減など、日本の山岳環境を維持し日本の登山文化を次世代に引き継ぐことに貢献できると思います。ドローンでこの物資輸送を代替しようとチャレンジされている事業者さまにはぜひ頑張って頂きたいと思っています。当方もいち登山愛好家のはしくれとして応援しております。

甲斐駒ヶ岳を望む