惑星探査と宇宙資源

2024年に入ってから日本の月面探査機SLIMの月面軟着陸成功、H3ロケット2号機の打ち上げ成功と立て続けに嬉しいニュースが続いています。また、アメリカの民間宇宙企業「インテュイティヴ・マシーンズ」の月着陸船も先日、月の南極付近に転倒しつつもなんとか軟着陸したとのことです。上記のように近年各国で宇宙輸送の能力向上及び低コスト化への活動、地球外の小天体への探査を試みる活動が盛んに進められています。これらの活動は将来的に月や火星、地球近傍の小惑星等への資源開発、人類の移住へとフェーズが進んでいくものと考えられます。

先日、名古屋商工会議所主催の【Space Approach Forum 第2回:宇宙でのモノづくり】に参加してきました。その中で宇宙資源の研究をされている東京大学大学院 宮本教授のご講演が印象深かったので、ご講演の要旨を踏まえた当方の所感を述べたいと思います。

「宇宙資源の考え方と市場可能性」:  東京大学大学院 工学系研究科システム創成学専攻 宮本 英昭 教授

  • 太陽系の探査は猛烈な勢いで進んでおり、どこにどんな物質が存在しているか人類はある程度把握できるようになった。地球は太陽系の岩石惑星で一番大きく重力も比較的大きいため、他の小惑星に比べて移動や輸送にコストがかかる。重力の大きさが行きやすさの尺度となる。よって、将来的な月面等での生産活動においては地球からすべての物資を運び上げてくるよりも、可能な限り現地や近傍の小惑星から材料調達する方向を目指していくことになる。
  • 地球は酸素が豊富なので金属は酸化した状態で存在するのが普通で、採掘した金属を工業製品として使用するためには素材を還元する必要がある。一方、真空中に存在する小惑星に含まれる金属は酸化されていないことが多いので還元処理をせずに使用できるメリットがある。小惑星から金属を採掘する技術や地球に持ち帰る技術がまだ途上だが、地球近傍には金属元素が豊富に含まれる小惑星が多数存在する。これらをうまく採掘し地球に持ち帰る技術が確立すれば、人類に莫大な恩恵をもたらす可能性がある。
  • 木星の衛星タイタンには大量のLNGやメタンが存在しており、燃料の供給源として有望。現状燃料からエネルギーを取り出すために必要な酸化剤を現地調達する手段がないことが課題。
  • はやぶさ、はやぶさ2など、サンプルリターンの技術で日本は世界のトップを走っており、この領域でイニシアチブを取り続けることが重要。かつてのゴールドラッシュ時代のように、目標が明確になり一旦技術が確立すれば変化は劇的に進むと考えられる。

夢とロマンにあふれる惑星探査や宇宙資源の採掘といったテーマですが、これらを事業として成立させるためには資金的課題や技術的課題を一つづつ解決していく必要があります。灯台下暗しで地球の内核やマントルにも膨大なレアメタル等の金属が存在しているようですが、現状の人類の技術ではこれらの地下資源にアプローチすることはまだ困難なようです。分厚い地殻を何千キロも掘り進めていくよりも近隣の小惑星を目指す方が急がば回れで結局近道なのでしょうか。。

いずれにしても上記のような事業を実現するためには、一つ一つの要素技術の積み上げ、既存技術の組み合わせによるイノベーション、何より時代の追い風が重要と考えます。宇宙への輸送コストが下がってきている今はまさに時代の追い風が吹き始めている時であり、我々は宇宙というテーマで(気軽に?)ビジネスに参入できる面白い時代に生きているのかもしれません。

はやぶさ2と火星探査車(岐阜かかみがはら航空宇宙博物館)