固体ロケットと液体ロケット
先日スペースワン社のロケット『カイロス』初号機が和歌山県の射場より打ち上げられました。結果は打ち上げ直後に飛行中断システムによる指令破壊という残念なものとなりましたが、まずは宇宙への第一歩を踏み出すことができたということで当方は前向きに捉えています。次回のチャレンジに期待したいところですね。
さて、宇宙ロケットと一口に言ってもそのシステムや構造には一般的に大きく分けて2つの形態があります。上記カイロスロケットはいわゆる固体ロケットと呼ばれるM-Vロケット(ミューファイブロケットと読む)やイプシロンロケットの流れを汲むタイプです。一方、H2AロケットやH3ロケットなどは液体ロケットという形態になります。どちらかの形態が一方的に優れているということはなく、ペイロードやミッションの内容により適宜最適なものを選定しています。
固体ロケットの利点は液体ロケットに比べて構造やエンジンが比較的単純で信頼性が高く、コストが安いこと。燃料も固体なので保管や輸送が液体燃料に比べて容易、打ち上げ前の燃料注入作業も不要。このようなことから射場設備がシンプルにでき、打ち上げ準備も比較的スピーディに行えます。ただし、一旦火をつけたらロケット花火よろしく基本的に燃料が燃え尽きるまで推力が発生し続けるため、細かな推力の制御はできません。緊急時に飛行中断をする場合は燃料タンクに穴を空けたり蓋を破壊したりします。
一方、液体ロケットは推進システムが複雑で重くスペースを取り、燃料の取扱いも繊細さが要求されます。しかしその分、細かな推力制御が可能であり、高い安全性が要求される有人ミッションや複雑な軌道ミッションなどへの対応が可能です。ただ実際の有人ミッションで使用される大型ロケットの場合は、固体ロケットブースタをメインエンジンの周りに搭載した形態が普通であり、運用上は両者の長所をうまく生かしてミッションを実現しているようです。
ちなみにロケットの積み荷(衛星機器等のペイロード)にとってはロケットによる振動や衝撃が少ない方が望ましく、なるべく小さい加速度で静かに飛んでくれる「乗り心地のよい」ロケットが喜ばれます。ペイロード側としてはこのロケットによる振動や衝撃が大きいとそれに耐えるような構造や特別な緩衝機構が必要となり、その分衛星機器は大きく重く、運賃も搭載重量と共に高価になります。要するに、「乗り心地のよい」ロケットへ搭載される衛星機器は「そうでない」ロケットへ搭載される同性能の衛星機器より軽く(安く)作ることができるということです。
当方も種子島や内之浦付近でロケットの打ち上げを見学したことがありますが、ロケットの燃焼振動や音響振動はすさまじいものがあります。H2Aロケット打ち上げの時は2キロくらい離れたところで見学しましたが、それでもあたりの空気はビリビリと振動し、体全体が揺さぶられる様な轟音でした。あんな環境で中の衛星機器はよく壊れずに耐えてるなと打ち上げ映像を見る度に思います。そしてロケット見学者あるあるでよく打ち上げが直前で延期されるのも見学者にとってはつらいところです(延期のつらさという点では打ち上げ事業者やペイロード顧客の比ではありませんが。。)。ロケットも価格競争の時代に入ってきています。製品の付加価値を訴求する上でこのような乗り心地や定時運行(発射)性など民間航空機に求められるような指標が今後はますます重要になってくるのではないでしょうか。
ところで固体ロケットと液体ロケットでどちらが乗り心地が良いでしょうか。実際のロケットに乗ってみたい方はロケットのユーザーマニュアルに音響振動レベルやランダム振動、分離衝撃などの特性が載っていますので、各社の値を比較するとあなたに最適なロケットが見つかるかもしれません。なお、ロケットのフェアリング室内は摂氏50度以上、与圧されていない場合は次第に空気が薄くなっていきますので暑がりの方や標高の高いところが苦手な方はご注意ください。
有人機のロケットエンジン例