ヘリコプター×飛行機(その2)
実は両者のいいとこどりを目指し、当時の最先端のテクノロジーを用いて開発された製品がいくつかあります。ここでは代表的な成功例としてV-22(オスプレイ)とF-35B、惜しい(?)例として少し古い機種になりますがXFY-1を紹介したいと思います。
V-22(オスプレイ)はどちらかというとヘリコプター寄りで、大きな可変ピッチのローターが機体の左右の固定翼にそれぞれ取り付けられています。ローター回転軸は前方にチルト(お辞儀)することができ、前方にも推進力を得ることができます。ところがローターを前方にチルトさせていくと上方への推力が減っていくことになるのでローターが完全に横向きになるまでには前進方向に十分な対気速度を得て主翼から得られる揚力で機体を支えておかないといけません。しかも機体が重心回りに回転してしまわないように常にバランスを取りながらです。特にこの垂直離陸から前進へのモードの切り替え時は、ローター軸の向きが時々刻々変わっていくので機体が不安定で制御が非常に難しいと推察されます。横風にも弱そうです。両者のいいとこどりを目指した結果、システムの複雑化による重量の増加、操縦や制御の難しさといったデメリットが生じ、機体は曲芸のような飛び方を要求されます。主翼の幅も短めで揚力を得るのも結構大変そうですが、それでも垂直離着陸やホバリングができる飛行機(長距離高速飛行ができるヘリコプター)のメリットは大きいようです。

F-35Bは固定翼の飛行機(艦上戦闘機)ですが、ジェットエンジンのノズルが鉛直下向きにチルトでき、別に巨大なホバリング用リフトファンも内蔵しています。これらの下向きの推力で短時間ながらヘリコプターのような垂直着陸やホバリングもできます。ただし垂直離陸は莫大な燃料を消費するため運用上難しく、離陸には短い滑走路が必要なようです。こちらも飛行機ベースの機体には本来不要なリフトファンや姿勢制御用の推進システムを搭載しており、重量増加とともに燃料や兵装の搭載スペースもかなり犠牲になっているはずです。一方で艦載機なので長大な飛行距離や兵装は犠牲にしてでも、狭い空母の甲板での離着陸に比較的場所をとらず、余ったスペースに機体を沢山配備できたり、小さな空母でも運用できるメリットを優先したものと考えられます。

少しマニアックな話になりますが、ヘリと飛行機を融合したような航空機のうち、V-22のようなタイプをVTOL(Vertical Take-Off and Landing)機、F-35BのようなタイプをSTOVL(Short Take-Off and Vertical Landing)機と呼んだりします。これらの航空機がヘリ寄りの飛行機なのか、飛行機寄りのヘリなのかはベースとなる機体やメインの使い方がどちらなのかである程度判断できそうですが、厳密な定義は難しそうです。ざっくりとした判断方法ですが、回転翼(ローターやプロペラ)がむき出しで可変ピッチのブレードかつサイクリックピッチなど推力方向を細かく制御できたらヘリっぽい。大きな主翼があり前進しながら離陸するのが楽そうなら飛行機っぽい。といったところでしょうか。
ヘリと飛行機を組み合わせたタイプの航空機は他にもいろいろありますが、機首にプロペラのついた飛行機を垂直に立てたような状態で離着陸を試みるテールシッター機なども奇抜で面白いです。代表的な例が1950年代に米海軍とコンベア社で開発されたXFY-1。ずんぐりむっくりしたフォルムがなんともエモいXFY-1ですが、揺れる船の上で鉛筆を立てるような超絶難易度の着陸を要求されました。しかも、着陸態勢の間、パイロットは仰向け状態で下がほぼ見えないため、キャノピーから顔を出して無理やり後ろ(下)を振り返りながら機体を操縦する必要がありました。仰向けの苦しい状態かつプロペラからのダウンウォッシュ(下向きの風)で頬を煽られながらの着陸はパイロットには大変不評だったことでしょう。この機体、離陸は何とかできましたが、足元が見えない状態での垂直着陸が困難を極めたため、運用の目途が立たず、結局開発中止となったようです。なお、有人のパイロットでは着陸に困難を極めたテールシッター機ですが、昨今は自動制御の無人機として復活の兆しがあるようです。ぜひ過去の知見を活かして無人機では成功させてほしいと思います。

ライト兄弟が操縦可能な動力航空機を発明して以来、XFY-1のように開発半ばでひっそりと(?)闇に消えていった航空機は数多あります。誰しも失敗はしたくないものですが、前例のない開発モノは上手くいかないのが当たり前。失敗も成功も含めた先人の技術開発へのあくなき挑戦が人類の進歩につながっていくものと思います。
ここまでいろいろな航空機を見てきましたが、ヘリでも飛行機でもない既存の概念から超越した万能な航空機がそのうち発明されるのでしょうか。当方もエンジニアの端くれとして、先人の知恵は有難く頂戴しつつ、未来の人類のために新たな技術や斬新なコンセプトを少し上乗せした航空機や宇宙機をチャンスがあればぜひ開発してみたいと思っています。
ちなみに最初の質問『みなさんはヘリコプター(回転翼機)と飛行機(固定翼機)のどちらが好きですか?』について、当方はどちらかというと飛行機派ですかね。超音速機など見た目がシュッとしたモノが好きなので。どうでもいいですが。。